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Money20/20 Asia レポート~最新の決済動向とセキュリティ~

目次

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    2019319日から321日までシンガポールで開催されたMoney20/20 Asiaに参加してきた。

    Money20/20はセキュリティに特化したイベントではなく、セキュリティを含む金融・決済業界全般の最新動向について情報発信が行われるイベントである。

     

    今回は普段、決済関連のセキュリティコンサルティング業務に従事する筆者ら2名で参加し、分担して各種セッションへの参加や決済ソリューション、サービスの展示ブースにて情報収集を行った。

     

    本レポートでは普段決済セキュリティのコンサルティングに関わる筆者らが、決済業界の最新動向や気付きをレポートする。

    Money20/20とは?

    概要

    Money20/20とは、2012年より米国で始まった決済、Fintechといった金融サービスの最新動向にフォーカスした世界最大級のカンファレンスである。2018年からは初のアジア開催が加わり、毎年アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中国の4箇所で開催され、金融サービス業界では注目度が高い。

    公式の開催概要では以下のように
    金融サービスのプレイヤー同士をつなぐ場を提供すると述べられている。

    Money20/20は決済、フィンテック、金融サービスに関するアイデア、人脈、ディールで世界最大の市場です。業界のあらゆるセクターを代表するリーダーが新たなビジネスチャンスを捉え、パートナーシップを強化し、最新の破壊的イノベーションを見出す場です。

    * Money20/20 Asia 開催概要より

    会場の雰囲気

    我々が参加したMoney20/20 Asiaではアジェンダ、会場の雰囲気などを含めてレトロゲームの世界観で表現されていた。会場の案内図やオープニングムービー、会場の一部にゲームコーナーを設けるなど、ゲームを意識した構成となっていた。

     

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    会場の案内図、会場の一角にあるゲームコーナー


    会場については、大きく4つのカンファレンスホールが用意されている他、展示コーナーでは協賛企業の展示ブースの役割も担いつつ、その場で商談ができるような雰囲気であり、実際商談が行われているようであった。2日目のセッション終了後には、展示ブースエリアにてアルコールが振る舞われ、フランクに話せるような雰囲気作りが行われていた。

     

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    アルコールを飲みながら商談を行う様子

    セッションのテーマ

    セッションは様々な金融・決済に関するセッション内容が 同時3並行程度で行われた。セッション毎にテーマが設定されており、参加者が参加するセッションを選択する際の一つの参考となるよう設計されていた。

     

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    Money20/20 Asiaのセッションテーマ(出展:公式概要) 

    決済サービス・技術の注目のテーマ

    事前に公開されたアジェンダを参考に参加セッションを決定した。

     

    セッションの選定についてはセキュリティに関するものを優先的に選んだものの、今回のカンファレンスの趣旨としては、セキュリティを前面に押し出したものではないため、決済サービスや決済技術に関するセッションを多く聴講する方針とした。

    その中で特に興味をひき、印象に残ったテーマについて紹介する。

    eKYC

    eKYCはElectric Know Your Customerの略称で、電子的に本人認証を行うことである。最近、日本でもメルペイ社やLINE社が本人確認をオンラインで済ませられる、eKYCの導入を発表した。


    Money20/20でも、eKYCについて最近のインドの事例を交えて紹介されていた。インドの通信会社では、開通処理の際に本人確認が必要でこれまでは開通にかなりの時間をかけて本人確認を行っていた。eKYCを導入することで、開通までの時間を大幅に短縮することができたと紹介されていた。

     

    日本でも今後、Fintech業界が活性化すると共にeKYCは注目されていく技術となるのではないだろうか。

    決済における生体認証

    金融業界とは切っても切り離せない認証についても触れられていた。

     

    すでに欧米ではアジア圏より先に、3DセキュアV2.0がサービスローンチ(本カンファレンス後の2019年4月頃に)されており、非対面決済においても生体認証が正式にサポートされるようになった。

     

    「3Dセキュア」とは?本人認証でクレジットカードの不正利用を防ぐ

     

    さらに、欧州地域ではPSD2(決済サービス指令)等の影響もあり、決済時の本人認証を強化するための具体的な施策として、複数要素認証が求められており、生体認証等の強力な手法を実装することが強く推奨されている。


    このようなセキュリティ面で、より強固な認証の仕組みが検討されており、今後はアジア圏でも生体認証が普及していくだろうという予想がされている。とはいえ、生体認証が万能であるというわけではなく、これによって不正が完全になくなるといったことも考えにくいため、別の要素でセキュリティ強化に効果をもたらす手段を考える必要があると述べられていた。また生体認証は強固である反面、盗難された際の代替が効きにくいといった面も持ち合わせていることから、導入にあたっては熟慮すべきであるとも述べられていた。

    Tencentのこれまでの取り組みと今後

    中国発のメッセージングアプリWeChat、決済業界の超巨大サービスWeChatPayの運営会社であるTencentが、これまでどのようなことを行ってきたか、現在の取り組みや今後の展望について発表されていた。


    Tencentは1999年にQQというメッセージングサービスを開始し、2011年にWeChatをローンチ、その後周辺サービスを拡充し、決済業界では中国の2大QRコード決済サービスのWeChatPayを運営している。WeChatPayは近年クロスボーダーペイメント(国際間送金や決済)にも力を入れており、16種類の通貨に対応しているとのことであった。

     

    決済以外ではHotelServiceについて紹介がされており、予約・決済・ホテル内のファシリティ操作までWeChatを介して操作するなどのサービス提供を開始し、今後世界へ展開していく旨が述べられていた。

    Grabの決済業界での取り組み

    マレーシア発のライドシェアサービスGrabが、金融業界へ進出した取り組みが紹介された。有名なところではGrab Payと呼ばれるQRコード決済サービスを開始しており、東南アジア圏で利用されている旨が紹介されていた。


    最近は小規模加盟店向けのMicroローンサービスや、Microインシュランスサービスを開始して、多様なニーズに応えられるようなサービス拡充について紹介された。

    QR決済の今後

    今回、会場ではいくつかのアンケート調査が実施され、カンファレンス参加に向けてその場でリアルタイムなフィードバックが行われた。特に興味深かったトピックとして、「QRコード決済」に関するアンケートおよびそれに関する議論があり、会場内ではモデレーター中心に闊達な意見が交わされた。


    具体的な内容として、QRコード決済は中国や東南アジアを始めとするアジア圏で、すでに広まりを見せているものの、「アジア以外にもさらに拡大していき、世界における決済手法のスタンダードになるか?」という問いに対し、会場の約6割の人はやや懐疑的な意見を持っていたのは興味深かった

     

    また、加盟店や決済事業者にとってみても、その導入のしやすさからQRコード決済自体が、今アジアでブームとなっている点は認められつつも、Apple PayなどのNFC(近距離通信技術)を使ったモバイル決済と比べた場合では、利便性とセキュリティ面で、やや劣るような印象を持っている人が多かった。

     

    今後、同じアジアの中でも国を跨ぐ、いわゆる “クロスボーダー” での決済がより広まっていくにつれ、QRコード決済も、仕様面(国や地域ごとに異なる仕様をどう統一化していくか)、ビジネス面(加盟店相互開放を広めていく)といった様々な切り口からの課題感が感じられた。

    【QRコード決済拡大の課題感】
    仕様面:国や地域毎に異なる仕様をどう統一するか?
    ビジネス面:加盟店相互開放をどう広めていくか?

    決済業界トレンドの今度について感じたこと

    新興テック企業の決済業界への進出

    Grabのような金融とは関係ない企業の決済業への進出が数多く見られた。東南アジアでは現在450種類ほどの決済手段があると言われており、決済業界も群雄割拠の時代となっている。今後どのような企業が覇権を握るのか、もしくは現状のまま進化していくのか、目がを離せないと感じた。

    ”クロスボーダー”の重要性

    参加したセッションにて数多く出現したワードの1つがクロスボーダーであった。前述の通り、近年決済企業は他業界からも数多く進出しており各社ユーザー体験の向上を図っている。その中の1つのテーマがクロスボーダーである。事実WeChatPayやAlipayなど外国の決済チャネルが日本でも利用できるようになっている。

    最近、日本でも様々なQRコード決済サービスが立ち上げられているが、WeChatPayやAlipayなどと同様に、今後は、海外での利用ができるようになり、利便性向上などが、拡充されていくことが期待できるのではないかと感じた。

    最後に

    今回主に決済に関する情報収集のためMoney20/20に参加したが、Alibaba・Tencentといったメガ・ジャイアントだけではなく、様々な企業が進出しており、今後の決済業界は更に熱を帯びていくものではないかと感じた。筆者自身も現地にてGrab Payを利用したが、クレジットカードから即時チャージでき、様々な店舗でQRコードを読み取ることで決済ができ非常に便利であった。

     

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    利用可能店舗に置かれていたQRコード(実際のコード部分はモザイク処理)

     

    一方、日本においてはQRコード決済のような新たな決済手段は、普及までにある程度の時間が必要であると思われる。日本でもすでに、仕様面での統一化や加盟店相互開放といった施策が行われてきているものの、QRコード決済サービス自体がすでに乱立した状態となってしまっているため、ユーザー側としては各種サービスを使いながら、それらのメリットや使い勝手などを見極めている状態にあるのかもしれない。電子マネーや現金決済にとって代わってしまうようなことも、現時点ではなかなか考えにくいだろう。


    また最近では中国でのQRコード決済に関する、不正利用のニュースを目にすることが多い。新たな決済手段の普及にはセキュリティ面での対策が重要な要素の1つとなるのではないだろうか。

    NRIセキュアテクノロジーズでは新たな決済手段となりうるQRコード決済に対しての、QRコード決済セキュリティリスク評価サービスや、クレジットカード情報取扱事業者のセキュリティ対策基準である、PCI DSS・PCI P2PEに関連する準拠支援/準拠審査も行っているため、決済に関するセキュリティに不安を抱えていらっしゃる場合は、ぜひ弊社にご相談いただきたい。